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ミニ情報通信

令和3年度関東・甲信越ブロック 障害者雇用特別セミナーが開催されました。

令和3年12月3日(金)午後1時15分から、標記セミナーがオンラインで開催されました。

このセミナーは、全障協が厚生労働省から受託した「障害者に対する差別禁止及び合理的配慮に係るノウハウ普及・相談支援事業」の一環として開催されたものです。

最初に全障協の栗原会長から開会のあいさつがあり、その概略は次のとおりです。

1)多数の皆様に参加いただき感謝。新型コロナウイルス感染症拡大の状況は最近、下火となってきた感じはあるが、未だ先行きが見えないなか、皆様には、たいへんご苦労されていることと思う。皆が安心して働けるよう、新型コロナウイルス感染症の1日も早い終息を祈っている。2)全障協は、障害者を多数雇用している全国の事業所が集まって作った団体であり、令和元年度に30周年を迎えた。その節目にあたり、「重度」の概念がない「精神障害者」の雇用が増加していること等を踏まえ、昨年4月に団体名称を「公益社団法人全国障害者雇用事業所協会」に改めた。1年が経過し、新名称も徐々に浸透してきているのではないかと感じている。引き続き、ご支援・ご協力を賜りますよう切にお願いする。3)全障協は、全国329会員からなっており、一般企業、特例子会社、就労継続支援A型事業所、また、福祉事業の作業所など多岐にわたる会員事業所が参加されているという意味で特定の分野に特化していない唯一の全国団体である。このため、障害者雇用に関する様々な情報・ノウハウの提供や企業見学等について1団体で対応できることを大きな特色としている。4)全障協では、全国7ブロックで原則、年2回づつブロック会議を開催し会員同士の経験交流等を行っており、さらに精神障害者雇用や各種助成金、特例子会社、青年部会などのテーマごとに全国ベースの研究部会を立ち上げる取組みも着々と進めている。5)平成29年度からは厚生労働省から事業を受託し、全国7か所に障害者雇用相談コーナーを設置している。障害者雇用で課題等をお持ちなら是非、気軽に活用いただきたい。6)本日は、まず、「障害者の雇用、そしてキャリアの支援に向けて〜特に精神障害者の職場適応とキャリア支援〜」をテーマにパネルディスカッションを展開する。その最初に、「メンタルサポート&コンサル東京」代表の大庭さよ様に基調講演をお願いしている。それを受けて、「(有)まるみ」取締役社長の三鴨岐子様、「MSD(株)人事部門人事グループ」の齋藤浩太様に加わっていただき、「(株)ダイバビリティ総合研究所」代表取締役所長・全障協理事の田沼泰輔様の進行のもとでディスカッションを行っていただく。その後、グループディスカッションや全体での質疑応答の時間も用意しているので、積極的な参加をお願いする。7)限られた時間ではあるが、セミナーの内容を是非、有効に活用いただき、今後の障害者雇用に活かしていただければ幸いである。

次いで、田沼理事の司会進行のもと、まず、大庭様による基調講演が行われ、その概略は次のとおりです。

1)JEEDの調査によれば、精神・発達障害者の離職理由のトップ3は、「障害・病気のため」「人間関係の悪化」「業務遂行上の課題あり」となっている。また、「離職を防ぐことができたと考えられる職場での措置や配慮」のトップは、精神障害者では「調子の悪いときに休みをとりやすくする」、発達障害者では「職場でのコミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置」となっている。2)コロナ禍が職場にもかなりの影響を及ぼしている。パーソルチャレンジの2020年7月と2021年8月のデータを比較すると、障害者が「働く際に重視すること」に関しては「収入・給与」が上昇している。また、2021年では「業務内容」がトップ3に入ってきている。身体障害者と精神障害を分けてみてみると、精神障害者では「健康上必要な配慮、健康支援」が2番目に入ってきている。

さらに、「働く上で幸せを実感するとき」について障害者全体では1位が「新たな学びや自己成長を感じるとき」、2番目が「体力的・精神的に安定しながら仕事ができているとき」となっている。精神障害者では「周囲からの、自分や仕事への関心や高い評価・評判を得られていると思えるとき」が高く、発達障害者では「新たな学びや自己成長を感じるとき」がより高くなっている。3)このようにデータを見ていくと、体調を良好に保つこと、周囲の人々からの理解が得られること、働くことを通じて自己成長できることの3点が精神・発達障害者が安定的に働くために必要であると考えられる。4)このうち体調管理支援には3つのポイントがある。1つは本人が自らの体調変化に早めに気付き対応できるように支援することである(セルフケア、セルフマネジメントの促進の支援)。その一方で、メンタルヘルスの部分は健常者でも自分で気付くのは難しく、不調にならないように就労環境を整備したり、不調になったときに早めに対応できるラインケアが必要である。さらに、本人と職場だけに任せると厳しい状況が起きてくる場合があるので、セルフケア、ラインケアを可能にするサポート体制の構築とスムーズな連携が必要になる。5)セルフケア支援で重要なことは「理解する」ということである。本人がどのように自分の病気を理解しているか、主治医がどう診断して治療しているのか、この辺りに意外にギャップがあったり、情報不足だったりする。また、どのように発症し、どのような症状の経過なのかを本人が自己理解している必要がある。一方で、自分自身に対する理解、何がストレスになるのかという環境に関する理解、体調・疲れに関する理解、休み方に関する理解、自分の生活・行動・認知パターンの理解が重要である。こうした理解を全部一緒くたにして「障害受容」という言葉で語られることがあるが、特に精神・発達障害の場合は敢えて細かく分けて理解への支援を行うことが必要であり、それにより対処のしかたも理解していくことができる。6)休み方については、どのように自分を休めて、どのようにリカバリーできるのか理解し対処に結びつけていくことへの支援が必要である。7)自分のパターン(=特徴)への対処については、リズム・行動・認知への理解を進め、それにどのように対処していくのか一緒に考えていくことが必要である。8)ラインケア促進支援については、基本的な障害特性、何がストレスになりやすいかを理解して、ストレスを軽減し能力を発揮しやすい職場環境づくりを行っていくことが必要になる。9)環境が整っていても、体調が不安定になることはあり、早めに気がつき、早めに声かけをし、話を聞いて業務上の配慮をするといった障害者に限らず一般の職場でもやられていることについてアンテナをより高くして実施することが必要である。10)体調が悪化したときの具体的な支援内容としては、まず本人の話をよく聞き、産業保健スタッフ、支援機関、医療機関と連携をとったうえで業務上の配慮をするということになる。その際、周りへの影響が大きいので、本人の了解を得たうえで周囲の従業員へ説明することが必要である。11)障害を持たれている方の働くことを支援するうえでキャリア発達の視点が必要である。サビカスの考え方によれば、キャリア発達をWhat,How,Whyで考えてみることが重要である。12)Whatは「何を」していくのかという環境適合アプローチの視点である。「何が」向いていて「何が」向いていないのか考える際には、できる−できないと、その人がやりたい−やりたくないの2つの軸で考えられているが、できるがやりたくないという場合があったり、本人が自分の「できる」、「できない」をわかっているとは限らないなどの場合もある。このため、複数の仕事をまずやってみたうえで向いた仕事に配置するといった工夫も必要になる。13)How「どのように」仕事をするのかについては、仕事のやり方、周りの人、考え方への工夫によってやりがいを見出せるようにするジョブクラフティングの手法がある。それにより、できるけれどモチベーションが持てない仕事にモチベーションを持って働いていただく工夫をすることも必要である。14)Why「なぜ」働くのかは、自分の働くことにどのような意味・価値があるのかに目を向けることであり、この中には「誰とともに働くのか」も含まれると感じている。
15)以上のようなお話の後、次の2事例について紹介され、最後に事例も踏まえて16)のまとめのお話がありました。

  • 体調面へのこだわりが強く勤怠が安定しなかったが、本人の強みを活かせるか・興味を持ってやれるかとの視点から業務調整を図り勤怠が安定した事例
  • コロナ禍でリモートワークが推奨されるなか、発達障害のある部下のマネジメントについて管理職から相談があり、どのように仕事を進めていくか管理職と当事者で相談した結果、十分なパフォーマンスを発揮できている事例

16)上記の事例をみると、5つの支援のポイントがあることがわかる。すなわち、当事者が抱える障害、キャリア形成について当事者も周りも理解する必要があり、環境変化の際などの当事者を取り巻く環境への理解も必要である。また、こうした理解に基づいて対話をするとともに、当事者だけに任せずに関係者との連携・協働を図ることである。これらにより当事者と環境の「効力感」を醸成することによって健やかで安定的に能力を発揮して働き、それぞれ一人一人が自身のキャリア形成を実現していくことが可能になるのではないかと思われる。(大庭様のお話の詳細は、こちらの資料をご覧ください。)

基調講演に続いてパネリストの三鴨様から概略次のお話がありました。

1)当社は印刷物のデザイン・加工、ホームページ制作、データ処理、軽作業などを幅広くやっている。社員12名中8名が精神障害を有しており、比較的長く安定的に働けている。2)仕事の内容としては、受発注から来客等対応、見積り、製作、納品請求などを分担して行っている。3)当社では、「ちょうどよい仕事」「安心できる環境」「自分を助ける力」の3点に取組んでいる。これらは、どちらかといえば人間関係をよくするための3点と考えている。4)このうち「ちょうどよい仕事」については、簡単すぎず、難しすぎない、ほどよく自己肯定感を持てる仕事が理想的である。このため、色々試し、向いている業務を見つけ、作業量や新たなスキルなど少しずつ難しくしていってキャリアアップを図かることをいつも念頭に置いている。5)当社の業務には、印刷物の制作、DTP、動画の制作、事務系の仕事、切ったり貼ったり運んだりの手作業があり、発達障害のある人には多様な特性があるので、色々試してから得意なもので担当を分けていくという形でやっている。6)「安心できる環境」とは、ソフト面・人間関係面においては「できない」ことを責められず、「活躍できている」と感じられる環境であると考えている。ハード面としては、休憩スペースを作ったり、一人作業ができる場所を確保したり、音が気になる場合のイアマフなど道具を使ったり、とにかく環境を整えようということをやっている。7)こうしたことには一緒に働く社員の理解が不可欠であり、様々な環境整備や一人一人に対するサポートはあくまで業務遂行のためであることを常に徹底して話している。人にフォーカスしてしまうと、なぜその人に合わせなければならないのかとう感情がどうしても出てしまうので、一人一人ではなく皆の目的のために環境を整えていくのだと話している。8)何か失敗があったときに、失敗を個人に帰属させるのではなく、皆の中で起こった出来事ととらえ、再発しないように皆で考えるということを心がけている。9)「自分を助ける力の醸成」については、どうしてこうなったのかを自分で分析して原因を明確にし、どうやればよかったのかを徹底的に話し合うようにしている。10)自分の状態を知るために、WEB日報システムのSPISを使っており、2年ほど前からは障害のない社員も含め全員に毎日記入してもらい、その日の気分、体調を共有するようにしている。11)これらの取組みの具体例として、対話により不安の内容を分解し、それぞれに解決案を提示することにより不安が解消できた事例などがある。12)働きづらい人が定着するためにいちばん大切なことは、まず、自分が困っていることを的確に把握すること、そしてそれを的確に伝えることである。その際、遠慮せずに伝えてもらうことが大事なので、「言っても怒られない」「言ったらきっと助けてくれる」というように周囲を信頼できることが必要と思う。このため、困る前から、発言する練習をしておくことが大事であり、それについて朝礼で毎日話をするようにしている。13)まるみで大切にし、実践していることとして、朝礼は長い時間をかけて行っている。また、弱さの情報公開ということで、いま起こっていることの背景をきちんと伝えるように話をしている。理解できれば、文句などは少なくなったり、出なくなったりする。ミスの申告をするように徹底して言ったら、隠し事がなくなり復旧することも早くなって思わぬ効果が得られた。14)皆で考えようということは常日頃から言っている。また、お互いに思いやる気持ちも大事だが、「これは困る」ということもお互いに正直に言わせてもらうようにし、どうしても理解できないことは本人に直接聞き、憶測で決めないことを大事にしている。さらに、できないことや失敗を謝りすぎるのではなく、お互いにカバーしあったことに感謝を伝えようということも言っている。15)いろいろ問題が起きる中で、特定の誰かが特定の人をサポートしていくと、いつか我慢の限界がきてしまうので、お互いにサポートしあえるようなナチュラル・サポートを目指して誰もが働きやすい会社を作っていきたいと考えている。(三鴨様のお話の詳細は、こちらの資料をご覧ください。)

続いてパネリストの齋藤様から概略次のお話がありました。

1)MSD(株)は製薬会社であり、約3,000人の従業員が勤めている。私は人事部門人事グループに所属し、障害者雇用全般として採用から入社後に至る業務全般、雇用及び人事制度に関する企画・運用を担当している。2)自身は自閉症スペクトラム障害(アスペルガー)を有しており、主な特徴としては、咄嗟の情報に適切に反応したり、推測して行動することが苦手ということがある。特に耳からの情報の処理や物量の多い情報処理が苦手で、一度にまとめて指示を受けると、耳に水が溜まったような感じがして言葉として受け止めずに音のようにそのまま流れていってしまう感覚がある。また、見通しが立たなかったり、相手から反応がない状態に強いストレスを感じるということもある。3)こうした特徴への対処として、仕事の指示等についてなるべく記録をとっておき、後で参照できるようにするなど視覚情報でカバーするようにしている。また、マルチタスクについては、なるべく簡素化することで対処し,内容の明確化のためになるべく自分の方から具体化したり、わかりやすいように伝えようと心がけている。なお、はじめて聞くことでなければ自身で予測して対処できるので、そういった状況でアウトプット等することにはまったく問題ない。4)会社の中で受けている配慮としては、確認・質問の機会を確保してもらったりしている。業務内容としても、目で見ることができるものだったり、ルールが決まっている、あるいは自分から展開できるような仕事はできているのではないかと思っている。5)精神障害者の職場適応のために必要な視点のうち会社に求められることは、聞く姿勢や機会の確保により障害を理解する姿勢を持ち、そのうえでアンコンシャスバイアスの存在に気付くことである。障害は属性の1つ、個人を表す1要素にしか過ぎないのであり、属性に対して必要な配慮をしていただければよいと考える。6)前職の入社時に上長から「障害には配慮する、仕事には遠慮しない」という言葉をいただいており、偏見を持たず、一人の社員として分けへだてなく接していくという意味であると思っている。このように、特別扱いせず、健常者同様に接する姿勢を持つことが障害者のキャリアにもつながっていくのではないかと考える。7)会社に求められる2つ目は、自戒の念も込めて、自己研鑽や障害者との対話により障害への理解を深めることが大切であるということであると思っている。人それぞれ特性が違うので障害内容等で一括りにせず接する姿勢が大事である。8)障害者が気をつけるべき点は、自己理解が重要であり、それがなければ就職活動や継続就労がうまくいかない可能性が高いということである。就労前・就労中問わず自分を知る機会をつくるとともに、できれば一人で判断せずに第三者の力を借りることが大切である。また、自ら発信することが重要であり、自分自身のみならず会社としてもお互い気持ちよく働けるようコミュニケーションしていくことが必要である。不確定要素や納得のいかないこともあるかもしれないが、障害者本人も不確実性のある社会にフィットする姿勢が必要である。9)精神障害者も一括りではなく様々な背景を持った人がいるため、会社は障害者を理解する努力、本人は障害を理解してもらい相手の背景も理解する努力が求められると思う。その上で、仕事は真剣勝負で手加減なしでやりましょうということになる。(齋藤様のお話の詳細は、こちらの資料をご覧ください。)

お三方のお話の後、障害者雇用を始めたきっかけ、働くうえで有効だった支援、採否を判断する際に考慮する点、雇用する側の対話スキルや障害者の自己発信の重要性等について意見交換が行われました。

パネルディスカッションに引き続いて、小グループに分かれていただいた参加者によるグループディスカッションが行われました。

最後に、参加者全員によるインタラクティブ・ダイアログが行われました。具体的には、グループディスカッションにおける意見交換の結果を踏まえ、個々の障害特性に応じた業務マッチングの考え方、自己理解と発信につながった支援内容、ジョブクラフティングの具体例、仕事の指示等における対話のポイント、休憩・休暇をとってもらうための方策について質疑応答が行われセミナーを終了しました。